蛛形類について
鋏角類・蛛形類
サソリは、分類学的には、節足動物門 (せっそくどうぶつもん Arthropoda) ・(鋏角亜門 きょうかくあもん Chelicerata) ・蛛形綱 (ちゅけいこう Arachnida) ・サソリ目 (Scorpiones) に属する動物です。節足動物には、昆虫類 (Insecta)、甲殻類 (Crustacea)、多足類 (Myriapoda) などが含まれます。
鋏角亜門 (鋏角類) はハサミ型の角 (鋏角) をもつ動物群です。サソリのハサミ型の脚 (触肢) は有名ですが、体の先端にもハサミをもっています。この、体の先端にある脚が「鋏角」です。ただし、鋏角がハサミ型でない分類群もあり、クモなどでは牙になっています。
鋏角類には、現生の種類 (目) としては、カブトガニ目 (Xiphosura)、サソリ目 (Scorpiones)、クモ目 (Araneae)、ダニ類 (Acari; ダニはひとつの目ではないと考えられています)、ザトウムシ目 (Opiliones)、カニムシ目 (Pseudoscorpiones)、サソリモドキ目 (Thelyphonida)、ヤイトムシ目 (Schizomida)、ウデムシ目 (Amblypygi)、ヒヨケムシ目 (Solifugae)、コヨリムシ目 (Palpigradi)、クツコムシ目 (Ricinulei) の12群からなります (化石としてはウミサソリ類などが知られています)。このうち、海生のカブトガニ目を除いた、陸生の11群が蛛形類 (蛛形綱 Arachnida) です。
日本国内に生息しているのは、サソリ類 (先島諸島、硫黄島)、クモ類、ダニ類、ザトウムシ類、カニムシ類、サソリモドキ類 (九州南部以南、小笠原諸島)、ヤイトムシ類 (奄美諸島以南、小笠原諸島)、コヨリムシ類 (石垣島で1個体が発見されたのみ: 青木・安間, 1971; 安間, 2007) です。
蛛形類の形態
蛛形類の体は6体節の前体 (頭胸部 prosoma) と12体節の後体 (腹部 opisthosoma) に分かれます。
前体は背甲に覆われているため、背側からは体節を確認できません。一方、後体は体節の区別ができる分類群も多く、特にサソリ類では、後体のうち、前の7節と後ろの5節が明瞭に区別されるため、それぞれ中体 (前腹部 mesosoma)・終体 (後腹部 metasoma) と呼ばれます。
後体の後ろ、体の最後部に尾節 (telson) が確認できる分類群もありますが、尾節は分類群によってさまざまな形態をしています。海生の鋏角類であるカブトガニ類では剣のように尖った形から剣尾と呼ばれますが、陸生の蛛形類では、サソリ類で毒針、サソリモドキ類やコヨリムシ類で鞭状、ヤイトムシ類では短い尾になっています。
蛛形類では、通常、前体第1節から後体最後節までを「体長」とします。尾節は通常の体節とは考えられていないため、体長には含まれません。ですので、コヨリムシやサソリモドキの鞭状体は体長の計測には含めません。 しかし、サソリでは、毒針部分を体長に含める場合と含めない場合の両方があり、毒針を含んで体長の計測をする研究者のほうが多いようです。
また、蛛形類では脚が非常に長い種が多いですが、脚は体節ではないため、脚の長さは体長には含めません。その代わりに、クモ類では、レッグスパン (leg span) という「脚をひろげた見かけの長さ」が使われる場合もあるようです。
蛛形類の各目について、体長のおおよその最大値・最小値を比較してみると下のグラフのようになります (小野, 2008; AASウェブサイト; ISAウェブサイト; Taylor, 2008)。
サソリ類が最も大きくなり、ダイオウサソリを含むPandinus属などでは200mmを超えるほどになります。一方で、最小サイズもMicrotityus属などでは9~12mmほどとなり (Kovarik and Teruel, 2014)、非常に幅が広いことがわかります。
その他の目でも、最大サイズが50mm程度になる場合でも、最小サイズは数mm程度にしかなりません。
ちなみに、各目での最大サイズの違いをイラストで比較してみると以下のようになります。
蛛形類の種数と生息環境
以下に、蛛形類の種数と生息環境を並べてみました (WACウェブサイト; AASウェブサイト; ISAウェブサイト; Rein, 2017; 小野, 2008)。
蛛形類の動物は基本的には陸生で、石の下や落ち葉の下など土壌中にいるものが多いですが、高山・洞窟など、分類群によっていろいろな環境に適応している場合もあります。なかには水中生活をするよう特殊化した種もいます。
種数としてはダニ類 (約45%) とクモ類 (約42%) で全体の9割を占めている状況です。これは、幅広く様々な環境に生息していることが理由のひとつにあるのかもしれません。
出典 ▼
- 青木淳一・安間繁樹 (1971) 日本からはじめて見いだされた鬚脚目Palpigradiについて (分類・形態・生態・行動・心理),動物学雑誌 80 (11・12):471-472.
- 安間繁樹 (2007) 石垣島自然誌, 晶文社.
- 小野展嗣 (2008) 節足動物の多様性と系統, 石川良輔 (編), 裳華房, pp.410-420.
- American Arachnological Society ウェブサイト. "Arachnid Orders." (https://www.americanarachnology.org/about-arachnids/arachnid-orders/) (2024/04/27参照)
- International Society of Arachnology ウェブサイト. "Orders of Arachnids." (https://arachnology.org/arachnology/orders.html) (2015/09/13参照)
- Taylor, C. (2008, August 29) The Strangest of Spiders., Catalogue of Organisms. (http://coo.fieldofscience.com/2008/08/strangest-of-spiders.html)
- Kovarik, F., R. Teruel (2014) Three New Scorpion Species from the Dominican Republic, Greater Antilles (Scorpiones: Buthidae, Scorpionidae), Euscorpius, 187:1-27.
- Natural History Museum Bern. "World Arachnida Catalog." (https://wac.nmbe.ch/) (2024/04/29参照)
- Rein, JO. (2017) The Scorpion Files, Trondheim: Norwegian University of Science and Technology. (https://www.ntnu.no/ub/scorpion-files/) (2024/04/29参照)