古生代のサソリは水中にいた?
シルル紀のサソリは水中生活だった?

サソリは4億3,800万年前頃 (古生代シルル紀) の地層から化石が発見されており (Dunlop and Selden, 2013)、少なくともこの頃から地球上に生息している動物ですが、現在までほとんど形態的に変化しておらず、「生きた化石」と呼ばれることもあります。しかし、古生代のサソリには現生種とは大きく異なる特徴があったと言われています。
現在、地球上に生息している全てのサソリは陸上で生活しています。しかし、古生代シルル紀には、サソリは水中で生活していたと考えられています。この主張のきっかけとなったのは、1882年にアメリカ・ニューヨーク州の中央部で4億1,800万年前の地層から発見された「Proscorpius osborni」というサソリの化石です (Whitfield, 1885)。

水中生活の証拠?
P. osborniが水中生活であったと考えられた理由は次の2点です。
- 化石の腹部に気門が認められない。
- 化石が出土した場所が、当時海岸部であり水に浸かっていたと考えられる (Whitfield, 1885)。
その後、P. osborniの腹部には鰓 (えら) をもっていた証拠があるという主張が登場し、その他にも鰓をもっているとされる多くの化石サソリが報告されました。
水中生活説への反論
それに対し、サソリの水中生活に批判的な主張も出てきました。
これまで記載された化石サソリのなかで、明瞭な鰓構造は確認されていないそうです。そして、P. osborniについても再調査が行われた結果、鰓の証拠と考えられたものは、はっきりとした証拠とは言えないようです (Dunlop et al., 2008)。
また、P. osborniの出土した場所は、シルル紀当時海岸部であり、全域が水に浸かっていたわけではなく、陸地があった可能性もあり、実際に、陸上植物も出土しているそうです (Dunlop et al., 2008)。潮間帯に生息するサソリもいるため、P. osborniが海岸部に生息していたとしてもおかしくありません。
現在でも、発見された化石サソリの水中生活説を主張する際には、「その化石サソリの形態が水中生活に適していること」や「水生の動植物の化石とともに出土したこと」などから、水中生活であったと仮定されていますが (Waddington et al., 2015)、「鰓」とはっきり言える決定的な証拠は見つかっていません。
出典 ▼
- Dunlop, JA. and PA. Selden (2013) Scorpion fragments from the Silurian of Powys, Wales, Arachnology, 16(1):27-32.
- Whitfield, RP. (1885) On a Fossil Scorpion from the Silurian rocks of America, Bulletin of the American Museum of Natural History, 6:181-190.
- Dunlop, JA., OE. Tetlie and L. Prendini (2008) Reinterpretation of the Silurian scorpion Proscorpius osborni (Whitfield): integrating data from Palaeozoic and recent scorpions, Palaeontology, 51(2):303-320.
- Waddington, J., DM. Rudkin and JA. Dunlop (2015) A new mid-Silurian aquatic scorpion-one step closer to land?, Biology Letters, 11:20140815.