サソリの情報Web

サソリの一生

サソリの婚姻ダンス

サソリの婚姻ダンス
サソリの婚姻ダンス

サソリは、厳密に言うと「交尾」はしません。つまり、オスとメスの交尾器どうしを合わせるような行動をとることはありません。サソリの場合、「交配行動」や「メイティング (mating)」と呼ばれます。

メイティングの際、サソリのオスは精包 (spermatophore) という精子の入った袋状構造を生殖口から吐き出します。そして、その精包をメスが卵巣内へ取り込むことで受精します。サソリのオスとメスが精包の受け渡しを行う際にとる行動はサソリの婚姻ダンス (promenade à deux: プロムナード・ア・ドゥ、2人の散歩) としてよく知られています。

  1. オスとメスが向かい合い、オスが触肢でメスの触肢をつかんで後ろへ誘導していきます。
  2. メスが暴れる場合は、オスが鋏角でメスの鋏角をつかむこともあるそうです。
  3. オスは櫛状板で地面を探り、良い場所が見つかると、生殖口から精包を地面に吐き出します。
  4. オスが引っぱって、メスが精包の上まで来ると、メスは生殖口から精包を取り込み受精します (Rubio, 2008)。

サソリの出産

サソリは「産卵」しません。サソリは胎生で、母親の体内で卵の成長 (胚発生) が進行し、若虫 (わかむし) を出産します。受精から出産までの妊娠期間は、種によって2ヶ月から22ヶ月と様々ですが (Lourenço, 2002)、キョクトウサソリ科のサソリは平均して5ヶ月程度、それ以外の科のサソリではそれ以上の期間となり、キョクトウサソリ科では妊娠期間が短い傾向があるようです (Polis, 1990)。ダイオウサソリ (Pandinus imperator) は約7ヶ月、オブトサソリ (デスストーカー, Leiurus quinquestriatus) は約5ヶ月、マダラサソリ (Isometrus maculatus) は2.5ヶ月程度のようです。

出産に先立って、母親は体の前部分 (前体や中体) をもち上げ、地面との間に空間をつくります。そして、第1・2脚を体の内側に曲げ、生殖口から産まれ出た若虫を受け止める姿勢をとります。第1・2脚でつくられたこの姿勢はbirth basket (直訳:出産かご)」と呼ばれます (Lourenço, 2002)。若虫は1個体ずつ順に産まれますが、出産の間、母親はbirth basketの姿勢をずっと保ち続けます。

通常1度の交配行動 (婚姻ダンス) で1度だけ妊娠・出産します。しかし、種によっては、メスが卵巣内に貯精嚢 spermatheca という構造をもち、貯精嚢に精子を蓄え何度かに分けて使うことで、数回妊娠・出産を繰り返す種もいます (Lourenço, 2002)。

サソリの出産
サソリの出産

サソリの成長

一齢若虫

サソリは胎生であるため、卵を産まず、サソリの形をした若虫 (わかむし) が産まれます。一度の出産で産まれる若虫の数は種によって異なり、数個体から、多い場合は100個体を超える若虫が産まれます (Lourenço, 2002)。しかし、同じ種でも出産個体数の変動が大きく、母親の齢や栄養状態に影響されるのかもしれません。ヤエヤマサソリでは20~30個体、マダラサソリでは10~20個体ほどが一度に産まれます。

産まれた1齢若虫は、通常のサソリよりも丸みを帯びた形をしており、歩脚の先端に爪はありません。出産後の1齢若虫は母親の背に乗り、脱皮をして2齢になるまでの間、母親に保護されています。1齢の間は餌を食べません。1齢若虫の期間 (脱皮までの期間) は種によって異なりますが、5日~25日程度です (Lourenço, 2002)。

母親の背に乗る1齢若虫
母親の背に乗る1齢若虫
ヤエヤマサソリの一齢若虫
ヤエヤマサソリの一齢若虫

若虫の脱皮と成長

若虫は脱皮を繰り返して成体になります。成体になるまでの期間、脱皮回数 (若虫の齢数) は種によって異なりますが、飼育観察記録から、成体になるまでの期間は7ヶ月から7年、脱皮回数は4~9回となります (Lourenço, 2002)。

ヤエヤマサソリの成長: Makioka (1993) より作成
ヤエヤマサソリの成長: Makioka (1993) より作成
ヤエヤマサソリの脱皮
ヤエヤマサソリの脱皮

サソリの寿命

産まれてからの寿命は、多くの種では2~5年ですが、長い場合は25年間生きた種 (Hadrurus arizonensis) もいるそうです (Polis, 1990)。

サソリの体長と寿命の関係: Lourenço (2002) より作成
サソリの体長と寿命の関係: Lourenço (2002) より作成

サソリの単為生殖

単為生殖

サソリの中にはメスの卵子がオスの精子と受精することなく妊娠・出産する種がいます。もちろん、貯精嚢に蓄えた精子を使うわけではありません。

通常、精子や卵子は減数分裂という細胞分裂によって染色体数が体細胞の半分になっており、受精することで染色体数を元通りに回復 (倍加) させ、卵の成長 (胚発生) が開始します。

しかし、生物の中には受精をしなくても何らかの方法で染色体数を元の数に回復させ、卵の発生を進めることができる種がいます。このような生殖様式を単為生殖といいます。

単為生殖は節足動物ではハチやカメムシなどがよく知られていますが、蛛形類でもダニ、ザトウムシ、クモ、そしてサソリで報告されています (Francke, 2008)。主に報告されているのは「雌性産生単為生殖 (メスを産む単為生殖)」です。オスを必要とせず、メス (成体) がメス (子) を産み、その子がまたメスの子を産みというサイクルが続くわけです。

単為生殖のイメージ
単為生殖のイメージ

単為生殖するサソリ

これまでにサソリ類の中で単為生殖について報告されているのは以下の19種です (Francke, 2008; Ayrey, 2017; Lourenço and Ythier, 2007; Lourenço and Cloudsley-Thompson, 2010; Lourenço et al., 2007; Michael, 2012; Seiter et al., 2016; Seiter and Stockmann, 2017)。

  • Buthidae (キョクトウサソリ科)
    • Ananteris coineaui
    • Centruroides gracilis
    • Hottentotta caboverdensis
    • Hottentotta hottentotta
    • Lychas tricarinatus
    • Pseudolychas ochraceus
    • Tityopsis inexpectatus
    • Tityus columbianus
    • Tityus confluens
    • Tityus metuendus
    • Tityus neblina
    • Tityus serrulatus
    • Tityus stigmurus
    • Tityus trivittatus
    • Tityus uruguayensis
  • Diplocentridae (フタトゲサソリ科)
    • Cazierius asper
  • Vaejovidae (アカサソリ科)
    • Serradigitus miscionei
    • Vaejovis spinigerus
  • Hormuridae (ヤセサソリ科)
    • Liocheles australasiae (ヤエヤマサソリ)

単為生殖の推定

上記の19種が単為生殖を行うことは、以下の4つを根拠として推定・結論付けられています。

  1. 個体群の性比が極端にメスに偏っている、もしくは全てメスである。
  2. 採集したメスが受精なしに妊娠・出産する。
  3. 産まれた若虫が全てメスである。
  4. 実験室内で産まれ、個別飼育された (一度もオス個体と関わらない) メスが妊娠・出産する。

しかし、1や3の場合、単為生殖能力があるかどうは確実ではないですし、2の場合には、貯精嚢に蓄えた精子を使って複数回妊娠・出産できる可能性もあるため、単為生殖を行うとは言いきれません。結果として、上記の19種のうち、単為生殖をするとははっきりと言えない種もいるようです。

出典 ▼

  • Rubio, MS (2008) Scorpions: Everything About Purchase, Care, Feeding, and Housing (Complete Pet Owner's Manual), Barrons Educational Series Inc.
  • Lourenço, WR. (2002) Reproduction in scorpions, with special reference to parthenogenesis, European Arachnology 2000 (Proceedings of the 19th European Colloquium of Arachnology), 71-85.
  • Polis, GA. (ed) (1990) The biology of scorpions, Stanford University Press.
  • Makioka, T. (1993) Reproductive biology of the viviparous scorpion, Liocheles australasiae (Fabricius) (Arachnida, Scorpiones, Ischnuridae) IV. Pregnancy in females isolated from infancy, with notes on juvenile stage duration, Invertebrate Reproduction and Development, 24(3):207-212.
  • Francke, OF. (2008) A critical review of reports of parthenogenesis in scorpions (Arachnida), Revista Iberica de Aracnologia, 16:93-104.
  • Ayrey, RF. (2017) Serradigitus miscionei, the first vaejovid scorpion to exhibit parthenogenesis, Euscorpius, 241:1-7.
  • Lourenço, WR. and E. Ythier (2007) Confirmation of reproduction by parthenogenesis in Hottentotta hottentotta (Fabricius) (Scorpiones, Buthidae), Acta Biologica Paranaense, Curitiba, 36(3-4):213-217.
  • Lourenço, WR. and JL. Cloudsley-Thompson (2010) The life cycle of Tityus (Atreus) neblina Lourenço, 2008 (Scorpioes, Buthidae) in ‘Cerro de la Neblina’, Brazil/Venezuela, Boletin de la Sociedad Entomologica Aragonesa, 47:293-298.
  • Lourenço, WR., E. Ythier and JL. Cloudsley-Thompson (2007) Parthenogenesis in Hottentotta caboverdensis Lourenço & Ythier, 2006 (Scorpiones, buthidae) from the Cape Verde islands, Boletin Sociedad Entomologica Aragonesa, 41:193-196.
  • Michael, S. (2012) Developmental stages and reproductive biology in Tityus confluens Borelli, 1899 and Tityus ocelote (Francke & Stockwell, 1987) (Scorpiones, Buthidae), Revista Iberica de Aracnologia, 21:113-118.
  • Seiter, M., FD. Schramm and A. Barthel (2016) The South African scorpion Pseudolychas ochraceus (Hirst, 1911) (Scorpiones: Buthidae) can reproduce by parthenogenesis, Journal of Arachnology, 44:85-87.
  • Seiter, M. and M. Stockmann (2017) The life history of the parthenogenetic scorpion Lychas tricarinatus (Simon, 1884) from Odisha province, India and supplementary notes on Tityus trivittatus Kraepelin, 1898 (Scorpiones, Buthidae), Zoologischer Anzeiger, 270:155-165.
2016/04/24 更新
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