ヨーロピアンイエローテールスコーピオン
~海を越えて英国に渡ったサソリ~

英名:
European yellow-tailed scorpion
学名:
Tetratrichobothrius flavicaudis (DeGeer, 1778)
科名:
分布:
アルジェリア、チュニジア、イタリア (シチリア島を除く)、フランス (南部、コルシカ島)、スペイン (南部、バレアレス諸島)、人為分布:イギリス (イングランド南部)、ウルグアイ (モンテビデオ) (Colombo, 2006; Toscano-Gadea, 1998; Wanless, 1977)
体長:
35~45mm (Benton, 1992)

ヨーロピアンイエローテールスコーピオンは、地中海沿岸の地域に分布しているサソリで、体は黒っぽい色をしていますが、歩脚と尾節 (毒針) は黄色っぽい色をしているのが特徴です (いくつかの亜種が報告されており、亜種によって色味が多少異なるようです)。
本種は長い間、Euscorpius属のTetratrichobothrius亜属として分類されていましたが、2019年にEuscorpiusから外れて別属 (Tetratrichobothrius) とする分類が提唱されています (Kovařík et al., 2019)。
自然の中よりも廃墟や人家に好んで生息しており、屋外では外壁やレンガ造りの外塀の割れ目や隙間、屋内では天井や壁から剥がれ落ちたタイルやブロックの下に隠れています (Colombo, 2006; Toscano-Gadea, 1998; Benton, 1992)。特に、かなり暖かい場所を好むようで、日光が当たる南向きの壁や塀に多いそうです (Colombo, 2006; Toscano-Gadea, 1998; Wanless, 1977; Benton, 1992)。夜行性のため、昼間は隠れており、日没後暗くなると動き回るそうです (Colombo, 2006; Benton, 1992)。
野外観察・飼育観察では、コウロギ、バッタ、ハエ、鱗翅目、ハサミムシ、甲虫、ワラジムシ、クモなど、様々な種類の動物を獲物とするようで、共食いも多く観察されています (Colombo, 2006; Benton, 1992)。
また、野外個体の観察から、6齢目で成体となるようです (Benton, 1991)。成体オスは触肢にくぼみ (notch) ができ、メスよりも櫛状板が大きくなるそうです (Benton, 1991) (つまり、上の写真はオスです)。
攻撃性はなく、毒も非常に弱く、針で刺された程度の痛みで、人体に害はないとされています (Wanless, 1977; Benton, 1992) (もちろん、毒の強弱に関係なく、アレルギーによるアナフィラキシーショックの可能性は指摘されています; Cutts, 2016)。
本種は、元々の分布地とは離れたイングランド南部やウルグアイのモンテビデオで定着していることがよく知られています (Toscano-Gadea, 1998; Wanless, 1977)。特に、イングランド・ケント州のシェピー島北部に位置する港町シアネス (Sheerness) は、1977年という古くから本種の定着が報告されていますが (採集記録では1870年のものがある) (Wanless, 1977)、詳細な生態観察が行われるなど (Benton, 1991; 1992)、最も有名な分布地となっています。しかしここは、本種が元々分布していた地中海沿岸という比較的温暖な地域に比べて、高緯度で寒冷な気候となります。そのため、イングランドにおいて本種が生息できるのは限られた地域だけだと考えられていましたが (Benton, 1992)、現在では、定着している地域が複数知られているほか、さらに分布域を拡げているとも考えられています (Cutts, 2016; d'Ayala, 2003)。
出典 ▼
- Colombo, M. (2006) New data on distribution and ecology of seven species of Euscorpius Thorell, 1876 (Scorpiones: Euscorpiidae).,Euscorpius, 36:1-40.
- Toscano-Gadea, CA. (1998) Euscorpius flavicaudis (Degeer, 1778) in Uruguay: First Record from the New World., The Newsletter of the British Arachnological Society, 81:6.
- Wanless, FR. (1977) On the occurrence of the scorpion Euscorpius flavicaudis (DeGeer) at Sheerness Port, Isle of Sheppey, Kent., Bulletin of the British Arachnological Society, 4(2):74-76.
- Benton, TG. (1992) The ecology of the scorpion Euscorpius flavicaudis in England., Journal of Zoology, 226(3):351-368.
- Kovařík, F., J. Štundlová, V. Fet and F. Šťáhlavský (2019) Seven new Alpine species of the genus Alpiscorpius Gantenbein et al., 1999, stat. n. (Scorpiones: Euscorpiidae), Euscorpius, 287:1-29.
- Benton, TG. (1991) The life history of Euscorpius flavicaudis (Scorpiones, Chactidae)., The Journal of Arachnology, 19(2):105-110.
- Cutts, D. (2016, April 5) Cannibal scorpions spreading across UK., The Sun. (https://www.thesun.co.uk/archives/news/214656/cannibal-scorpions-spreading-across-uk/)
- d'Ayala, R. (2003) European scorpion Euscorpius flavicaudis in Oxfordshire., The Reading Naturalist, 55:20.