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マダラサソリは外来種なのか?

1.外来種とはなにか?(外来種の定義)

ウチダザリガニ (環境省提供)
ウチダザリガニ (環境省提供)

現在、「外来種」という言葉は広く一般に使われるようになりましたが、論文、書籍、一般の人々に使用されるなかで、使用する人によって、少し異なる意味 (ニュアンス) で使われている場合があるという印象を受けています。さらに、「移入種」「帰化種」など、他の言葉を使う人もいるようですが、今回は「外来種 (alien species)」のみに絞って考えます。

「本来はいなかった場所に分布を拡大した種」を外来種と考える人がいるようですが (本来っていつだよと、個人的には思います)、本来生物は動くものなので、分布域が変わるのは当たり前だとも言えます。

今回は外来種の定義について考えてみますが、外来種の対義語として用いられる「在来種」という言葉についても、外来種を定義することで対義語も定義されるため、こちらについても考えてみます。

いくつかの文献を調べてみましたが、外来種という言葉は人によって定義が異なることがあるようで、外来種に関する論文では、この論文中ではこういう定義で使用しますとしている場合もありました (岩崎ら, 2004; 岩崎, 2006)。反対に、外来種について定義しないで使用されている場合は、書き手と読み手で解釈が異なる可能性があるということだと思います。

今回、外来種の定義について調べた文献のなかから、いくつか例を挙げてみます。


巌佐庸ほか(編) (2003) 『生態学事典』より

外来種

外来種 (alien species) とは、自然分布範囲や分散能力範囲外に、人為によって直接間接的に持ち込まれ生育・生息している種・亜種・それ以下の分類群を指す。

八杉龍一ほか(編) (1996) 『岩波 生物学辞典 第4版』より

帰化 naturalization

生物が本来の自生地から人間の媒介によって他の地域に移動し、その地で生存・繁殖することができるようになること。動植物ともにあって、それぞれ帰化動物 (naturalized animal)、帰化植物 (naturalized plant)、また両者をあわせて外来種 (introduced species) または移入種という。 (中略) ふつうは導入経路が歴史的にだいたい見当がつけられるものに限るが、古代に人間がいろいろの方法で移動した際に生じた帰化植物もあり、これを史前帰化植物 (prehistoric-naturalized plant) という。

生物多様性条約第6回締約国会議決議 (2002) 『生態系、生息地及び種を脅かす外来種の影響の予防、導入、影響緩和のための指針原則』より

alien species (外来種)

過去あるいは現在の自然分布域外に導入された種、亜種、それ以下の分類群であり、生存し、繁殖することができるあらゆる器官、配偶子、種子、卵、無性的繁殖子を含む。

環境省・農林水産省・国土交通省 (2015) 『外来種被害防止行動計画』、環境省自然環境局 「日本の外来種対策ウェブサイト 用語集」より

外来種

導入 (意図的・非意図的を問わず人為的に、過去あるいは現在の自然分布域外へ移動させること。導入の時期は問わない。) によりその自然分布域 (その生物が本来有する能力で移動できる範囲により定まる地域) の外に生育又は生息する生物種 (分類学的に異なる集団とされる、亜種、変種を含む)。

いくつかの文献で外来種の定義を調べてみた結果、ポイントになるのは「導入」という部分のようです。

導入 (introduction) とは、人間を介して生物を運ぶ (生物が運ばれる) ことです。つまり、人間を介して持ち込まれた種というのが外来種の定義としてひとつのポイントになります。

上記のように、導入には、意図的な導入 (食用にとウシガエルを日本に持ち込んだなど) と非意図的な導入 (木材を輸入する際、木材についていた昆虫も一緒に持ち込まれてしまったなど) があります。


では、導入でない、つまり人間を介さない生物の分布とはどういうものでしょうか。

多くの文献では「自然分布」という言葉が使用されていますが、この自然分布という言葉がきちんと定義されていないようなのです (導入による分布が人為分布なので、人為でない=「自然」ということなのでしょうが)。上記の『外来種被害防止行動計画』の例では、「その生物が本来有する能力で移動できる」となっています。また本来が出てきてあいまいになってしまいました。

「その生物が本来有する能力で移動できる」を説明するにあたって、いくつかの文献で使用されていた言葉に「分散 (能力)」があります。

(自然分布範囲=分散能力範囲と考えていいように思うのですが、上記の『生態学事典』の例では「自然分布範囲や分散能力範囲」と別の言葉として並列されています。やはり、それぞれの言葉の定義は難しいようです。)


分散を表す簡単な例は、動物が陸上を歩いて移動したとか、羽をもつ生物が空を飛んで移動したなどです。

さらに、その生物自身の力を使わなくても、自然の力を利用した場合も、分散とされます。

  • 果実を食べた鳥などが別の場所へ移動して排泄することで、種子が運ばれる。
  • 渡り鳥の体に種子、水草、貝などが水面から付着して運ばれる (ダニのなかにも鳥を利用する種がいるようです)。
  • 台風などの風で生物が運ばれる (植物の種子やダニは風で移動しますし、チョウでは迷蝶として知られ、クモはバルーニングをすることが知られています: ウィルソン, 2004)。
  • 生物の入った木材が海流によって運ばれる (カミキリムシの幼虫など: 槇原, 2013)。特にサソリの場合、火山噴火で生物がいなくなった島で発見された例があり、流木などに乗って運ばれた可能性が示唆されています (Vachon and Abe, 1988)。
分散の例
分散の例

以上を踏まえ、その生物自身または自然の力を利用してその場所に分布している種を在来種、その生物自身または自然の力では到達できない場所に人間を介して持ち込まれた種を外来種と考えるとわかりやすいと思います。

また、外来種は国単位で考えるものではないため、国単位で考える場合は、国外由来の外来種 (外来種のうち、国内に在来個体群が分布していない種)、国内由来の外来種 (国内の在来個体群が、国内の分布していない地域に導入された場合) という区別がされます。


今回まとめた定義は、各文献を調べた結果、当ウェブサイトとして定義したものになります。あらためて述べておきますが、外来種・在来種という言葉は使用する人によって定義が異なりますのでご注意ください。


最後に、ひとつ気になったのですが、在来種については、いずれの定義でも「過去または現在」の分布域を対象としています。しかし、生物は動くものなので (自然の力を利用する場合も)、これから分布域が広がる (変化する) 可能性もあると思うのですが、その場合はどう考えるのでしょうか?特に気候変動による影響が考えられますが、「温暖化なので、間接的に人間を介した」とか言っちゃうのでしょうか。ちなみに、生物多様性条約第6回締約国会議決議では生態系は時とともにダイナミックに変化するものであり、種の自然分布は、人為によらなくても変化する可能性があるという事実を充分考慮しなければならないとされています。

出典 ▼

  • 岩崎敬二, 木村妙子, 木下今日子, 山口寿之, 西川輝昭, 西栄二郎, 山西良平, 林育夫, 大越健嗣, 小菅丈治, 鈴木孝男, 逸見泰久, 風呂田利夫, 向井宏 (2004) 日本における海産生物の人為的移入と分散: 日本ベントス学会自然環境保全委員会によるアンケート調査の結果から, 日本ベントス学会誌, 59:22-44.
  • 岩崎敬二 (2006) 外来付着動物と特定外来生物被害防止法, Sessile organisms, 23(2):13-24.
  • 巌佐庸, 松本忠夫, 菊沢喜八郎, 日本生態学会 (編) (2003) 生態学事典, 共立出版.
  • 八杉龍一, 小関治男, 古谷雅樹, 日高敏隆 (編) (1996) 岩波 生物学辞典 第4版, 岩波書店.
  • 村上興正 (訳) (2002) 生態系, 生息地及び種を脅かす外来種の影響の予防, 導入, 影響緩和のための指針原則, 生物多様性条約第6回締約国会議.
  • 環境省, 農林水産省, 国土交通省 (2015) 外来種被害防止行動計画.
  • エドワード・O.ウィルソン, 大貫昌子 (訳), 牧野俊一 (訳) (2004) 生命の多様性, 岩波書店.
  • 槇原寛 (2013) 移動する森林昆虫類 (1) 小笠原諸島のカミキリムシ類, 海外の森林と林業, 88:58-62.
  • Vachon, M. and T. Abe (1988) Colonization of the Krakatau Islands (Indonesia) by scorpions, Acta Arachnologica, 37(1):23-32.
2020/05/05 更新
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