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マダラサソリは外来種なのか?

6.最後に

最後に、マダラサソリが特定外来生物に指定されていることで問題となること、弊害について考えてみます。

マダラサソリが特定外来生物だと問題があるか

一つ目は、これまでにも述べてきましたが、マダラサソリが日本の在来種であるという考えがあるために混乱をまねく (というか、まねいている) ということです。マダラサソリ事件についての報道によると、販売をしていた男性は禁止されていることを知っていたと述べているそうですが (朝日新聞デジタル, 2018)、この事件以前にもマダラサソリを販売している人や飼育している人はいましたし、多くの人はマダラサソリが特定外来生物から除外されると考えていたはずです。しかも、外来生物法の関係者のなかでさえマダラサソリは特定外来生物の対象外だという認識があり、混乱が起きていたことがわかります。

事件後、一般にもマダラサソリが特定外来生物となることが広まりましたが、「キョクトウサソリ科だったため、在来種なのに外来生物として規制されるようになりました」(加藤, 2019) というような記述も見られます。事件以前は (おそらく) マダラサソリの扱いがわからないためにはっきりとは書かれなかったのに、特定外来生物となることがわかった途端に「在来種なのに」とするのは、ちょっと無責任な気がします。(根拠が必要かわかりませんが、) 主張をするならば、きちっと根拠を示して理解を広めるべきです。単に「在来種なのに特定外来生物」という認識が広まってしまうと、余計に混乱を広げることになるでしょう。もし、「世間の感覚と法律とは違うから」と考えている人がいるとしたら、それもちょっとよくないと思います。外来生物法の意義がぼやけることになるかもしれません。


二つ目は、キョクトウサソリ科のサソリが人体に被害を及ぼすおそれがあるという理由で特定外来生物に指定されているために、マダラサソリについて間違った認識をもたれることです。マダラサソリ事件が報道される際、危険なサソリであるという印象をもたせようとしたのか、複数回刺されるとアナフィラキシーショックを起こす恐れがあると記述した記事が複数見られました (京都新聞, 2018; 時事通信, 2018; 産経新聞, 2018)。アナフィラキシーショック自体は毒の強さに関係なく起こり得ることなので、専門家会合でも選定の基準としては考慮しないことが述べられています。また、外来種に対する印象からか、「近年は国内に持ち込まれ、宮古島などで増えています。(中略) 毒性は弱いものの、生態系への影響が心配されています。」(毎日新聞, 2018) という記述も見られました。辞書で調べてみましたが、「近年」とは「最近の数年間」という意味です。何を根拠にこんなことを書いているのでしょうか (100年以上前からいるわ!とツッコんでしまいました)。

そもそも、なぜキョクトウサソリ科全種が特定外来生物に指定されたかというと、サソリを輸入する際に手続きを円滑に進めるためです。キョクトウサソリ科のなかの猛毒をもつサソリを規制するうえで、キョクトウサソリ科全種を対象とすることによって、特定外来生物のサソリとそうでないサソリを簡単に見分けられるようにしたのです (外来生物法とサソリ)。つまり、猛毒をもつサソリを規制するための手続き上、強い毒をもたないであろうほとんどのキョクトウサソリ科のサソリもまとめて特定外来生物としたのです。ですから、特定外来生物に指定されているから危険なわけではありません。サソリは簡単に見分けがつかないので、手続きを円滑に進めるためにある程度まとめて規制対象とするのは仕方がないと理解できますが、理由がきちんと伝えられず、誤って解釈されるのはデマ等にもつながる恐れがありよくないことです。

三つ目は、特定外来生物は防除ができるということです。外来生物法では、特定外来生物による被害が生じた、または生じる可能性がある場合に、必要であれば防除が行えます (外来生物法 第3章)。キョクトウサソリ科のサソリについては、人に重傷を負わせるおそれがある場合に完全排除等の防除を実施できるそうです (環境省, 2015)。マダラサソリの毒で重傷を負う人はなかなかいないと思いますが、何に対してもアナフィラキシーショックというのは起こる可能性がありますし、第一、マダラサソリで外来生物法違反が適用されるとは誰も思っていなかったのに、実際に起きてしまった今となっては何が起きてもおかしくありません。少なくとも1900年頃からマダラサソリが生息しており、おそらく生態系の一部となっている先島諸島でマダラサソリの防除が行われるようなことがあれば、非常に恐ろしいことです (これはあくまで可能性のはなしと思ってください)。

そもそも何が問題だったのか?

ここまで見てきた結果、マダラサソリが在来種なのか外来種なのか結局よくわかっていないにもかかわらず、特定外来生物に指定されているということがわかりました。特定外来生物であれば外来種でなければならないのですが、マダラサソリが外来種であるとはっきりと認識している人がいないために、外来生物法に関わる人のなかでも混乱が起きていたのでした。

では、このような状況を作り出してしまったそもそもの問題は何だったのか。それは、結局のところ、サソリを外来生物法で規制しようとしたことだと思います。

イエローファットテールスコーピオン
イエローファットテールスコーピオン (環境省提供)

外来生物法が制定された2004年頃、ペットとして飼育されていた毒をもつ動物や危険な動物が脱走する事件が相次いで起きました。問題の発端と考えられている2003年のイエローファットテールスコーピオン脱走事件は有名ですが、それ以外にもサソリなどの動物が野外で発見される事件が起き、2005年には環境大臣や環境省自然環境局長が「外来生物の適正な飼育に係る談話」を発表するに至っています (環境省, 2005a, 2005b)。当時、環境省としては、毒をもつペットについて相当敏感になっていたと思われます。

外来生物法でクモやサソリ規制する理由について、当時の専門家会合でも、「猛毒を有するようなクモとかサソリというのは、先ほどの動物愛護管理法では実は対象になってないということでありまして、危険動物としては指定されてないものですから、そこは早急に規制を検討する必要があるであろう」と、危険な動物を規制する法律で対象になっていないために外来生物法で規制するということが述べられています。

規制対象になっていないのであれば対象にすればよいということで、相原・秋山 (2007) は外来生物法よりも動物愛護管理法でサソリ類を規制するべきと主張していますし、特定外来生物選定時のパブリックコメントでもサソリ類を動物愛護管理法で規制すべきという意見が出ています。しかし、動物愛護管理法では無脊椎動物は対象となっていないことから、危険な動物を規制する法律でサソリ類を規制することは日本では行われていません。


危険な生物を何かしらの方法で規制することが必要なのはわかります。しかし、国際的に見ても、外来種を規制する目的は、在来生態系へ影響を与えないためであり、人体に被害を及ぼすのを防ぐためではないはずです。この点について、日本では猛毒をもつペットの規制を急ぐあまり、「外来種の規制」と「危険な種の規制」をひとまとめにしてしまったことが、マダラサソリを巡る問題の根本と言えるでしょう。少なくとも、危険な生物を規制する法律で「キョクトウサソリ科全種」が対象となっていれば、外来種か在来種かという点での混乱は起きなかったはずです。


外来生物法は外来種を規制する法律であり、外来種かどうかわかっていない (外来種と認識されていない) 種が規制対象となっているのは問題だと思います。ですので、今の状況では、マダラサソリは特定外来生物から除外したほうがよいと思います。マダラサソリが特定外来生物から外れたところで、種類名証明書の添付が必要な生物として国外からの持ち込みは規制されますし、特に問題があるとは思いません。

手続き上、どうしてもマダラサソリを特定外来生物としたいのであれば、調査をして、外来種であるという認識を示したうえで、特定外来生物に加えても遅くないと思います (マダラサソリ事件後、環境省でも問合せを多く受けたとしながらも、今のところ専門家会合ではマダラサソリについて議論されていません)。


個人的には、マダラサソリが特定外来生物になっていることに不満があるわけではありませんし、外来生物法がよくないとも思ません。

ただ、どうしてもつじつまの合っていないところがあり、その点について誰も説明できない (調べていくほど混乱の沼にはまっていく) ことに困っているというだけです。これは外来種問題以前のはなしなのです。

この点について、きちんと解決されることを願うばかりです。

出典 ▼

  • 朝日新聞. (2018/12/12). “「⼩遣い稼ぎ」でサソリ売買容疑 国交省職員ら書類送検”. 朝日新聞デジタル.
  • 加藤英明 (監修), 岡田卓也 (絵) (2019) 外来生物大集合!おさわがせいきもの事典, 高橋書店, 東京.
  • 京都新聞. (2018/12/12). "マダラサソリ売買容疑で書類送検 航空管制官ら".
  • 時事通信. (2018/12/12). "マダラサソリ販売容疑=航空管制官ら書類送検-警視庁". 時事ドットコム.
  • 産経新聞. (2018/12/12) "マダラサソリを違法売買 松山市の国家公務員の男らを立件...警視庁". 産経ニュース.
  • 環境省 (2004) 第1回 特定外来生物等分類群専門家グループ会合 (無脊椎動物) 議事録.
  • 毎日新聞. (2018/12/14) "外来サソリを違法販売 容疑の男3人を書類送検".
  • 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律 (外来生物法) 第三章 特定外来生物の防除.
  • 環境省 (2015) きょくとうさそり科全種等の防除に関する件 (平成18年環境省告示第40号).
  • 環境省 (2005/09/15) 外来生物の適正な飼育に係る「環境省自然環境局長談話」.
  • 環境省 (2005/09/30) 外来生物の適正な飼育に係る「環境大臣談話」.
  • 相原和久, 秋山智隆 (2007) タランチュラ&サソリ (節足動物ビジュアルガイド), 誠文堂新光社, 東京.
2020/05/07 更新
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